| フランスの均等論 |
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I. はじめに
II. 均等手段による侵害の定義
III. 均等論の適用
IV. フランスの均等論適用の特徴
V. 欧州特許条約による均等侵害の解釈
I はじめに
先行技術に照らして有効な特許の最も単純な侵害とは請求項で定義されている発明を文字通り模倣したものである。
しかし文字通りの模倣のみが侵害と認定されるならば特許権者は出願時に将来起こりうる侵害の可能性すべてを想定して特許請求の範囲を記載しなければならず、特許権者にとって酷なことはいうまでもない。また発明の範囲から離れず、特許発明の形をわずかに変えただけのものに対し特許権が行使できないことを許容するならば特許制度の根幹にも関わる問題となる。
この理由から世界中の裁判所は特許請求の範囲の記載のみを発明の保護範囲とせずそれより広く解釈することを認めるようになった。
均等論は、特許権者の権利を守るため特許請求の範囲を余りに制限的に解釈しないようにとの態度と一方特許範囲の余りに拡張しすぎた解釈との両方の均衡をはかって第三者が常識的な態度で対応できるようにとの発想のもとに発展してきたものといえる。
均等の概念は多くの国で認められているがその適用は国によって異なるのが実際である。
本論文は均等による侵害の定義を説明し、次にフランスで均等論がどのように適用されているかについて述べることを主眼としている。特にフランスの均等論解釈の特徴と欧州特許条約枠内での均等の範囲について説明する。
II 均等手段による侵害の定義
1. 定義
2つの手段が異なる形態あるいは構造をしていても同じ結果あるいは同種類の結果を得るという観点から同じ機能を果たしている場合、その2つの手段は技術的に均等である。
技術的均等要素とはまず、置換要素として、それが特許されている要素に替えて使われたとき、特許されている要素と同じ機能を果たすものでなければならない。
2. 均等による侵害
上記で定義された技術的均等手段は侵害とみなされる。ただし特許の有効性を確保しようとして特許者が、特許請求した要素に特別の定義を与えて保護範囲を制限した場合、置換要素は均等だとみなされない。
もっと厳密に言えば、特許の保護範囲が機能に及んでいて、技術的均等手段と特許の請求している手段のいずれによってもその機能が実現されるとき、上記で定義された技術的均等手段を含む製品あるいは方式は、特許を侵害している、のである。
均等要素によって置換される、特許請求された要素は、クレームにおいて構造によって定義される(のが普通である)。 が、(機能を達成するための手段というような表現を用いるクレームのように)要素が機能的に定義されていても、そのクレームが有効だと認められたのなら、特許の保護範囲は機能に及ぶ。
III 均等論の適用
A,B,C,D の各特徴を有する特許に対し、侵害とみられる製品あるいは方式が特徴A,B,C及びD’を持っているとする。そしてD’がDとは異なる形態あるいは構造からなっているとする。この製品あるいは方式が侵害かどうかを見極めるにはまずD’が上記で定義された技術均等要素かどうか、またさらに、特許の保護範囲は特徴Dに関し形態だけでなくその機能にも及んでいるかどうかを知る必要がある。
1. D’はDの技術的均等要素かどうか
この点に関して、D’が、侵害疑義製品または方式において特徴Dの果たしている機能と同じ機能を果たしているかどうか、を見なければならない。
ある要素の機能とはその直接の技術効果のことである。機能とは発明のもたらす全体的な結果のことではない。結果は特許たり得ないが、発明のもたらす結果を得るための技術的手段は特許でありえる。が、そのための技術的手段は、“これこれの機能を果たさせるための手段”という表現(機能的表現方法)で特許請求することが可能である。
均等による侵害があるかどうかを判断するにあたって、控訴院は“直接の技術効果と発明のもたらす結果は異なるものである”と判決した (Transgra対Aerograin 1994年2月8日パリ控訴院判決)
別の判決で、控訴院は“結果は、均等による侵害かどうかを見極めるとき考慮するべきではない”(BennesSaphen対Guima 及びParis Hydraulique 1998年12月1日付け判決)
ある手段の機能がどういう性格のものかを見極めるのは理論的な問題であるというより具体的問題であって、均等による侵害紛争はこの点が争点になる。
Moulinex対Seb事件(1992年12月1日パリ控訴院判決)では、侵害疑義製品はその機能において特許のそれを果たしていないので侵害はないと判決された。
本件は電気式てんぷら鍋に関するもので、特許は鍋の外側にプラスチックのカバーをつけて鍋との間を空気で隔てることによってカバーが高温になることを防ぎ、使用者が高温部分に触らなくても作業ができるようにしたものであった。
特許は、鍋とプラスチックの覆いカバーの間は空気を充填したリング状のものによって密閉されていた。
一方、侵害疑義製品のてんぷら鍋の方は環状のものでなく仕切りがいくつかある部品によって鍋とプラスチック覆いカバーが連結されていた。
控訴院は、
“2つの手段が異なった形態を持っていても同じ結果が得られるという観点から同じ機能を果たしているならばそれらは均等手段であるとみなされる。”
“本件の場合、手段は異なる形態を持ち、かつ同じ機能を果たしていない。特許の手段であるリングは熱絶縁の物質からなっていて、鍋と覆いカバーの間の空間を閉じており空気の循環はない”。
“一方、侵害疑義製品の方は、(中略)空気と多いカバーの間の空気は密閉されておらず循環する。よって、特許の請求項1は侵害されていない”と判決した。
2. 特許の保護範囲は特徴Dの機能をカバーしているか
ある特許が特徴A,B,C,及びDからなる製品あるいは方式を請求している。仮に出願時に特徴Dのかわりに“特徴Dの機能を果たすための手段”が請求されていたとしても特許されていたとするならば特許の保護範囲はDの機能にも及んでいると認められる。
同じ結果を得られるという観点から、特徴Dと同じ機能を果たす、D’の手段の機能がA,B,Cとあわせた時に既に公知であるなら、均等による侵害はないとみなされる。この場合特許は、特徴Dを含んだ製品あるいは方式のうち特許で文字通り請求定義された形と構造だけに及んでおり、特徴Dと同じ機能を持つ他の手段には及んでいないからである。
Bennes Saphem 対Guima及びParis Sud Hydroliqueに関し判決は、
“発明がその形、適用方法及びその機能によって特徴付けられていて、特許対象になっている手段の機能が新規でなく、その結果特許の保護範囲がその機能に及ばないとき、特許された手段と異なった形をもつ手段が特許されたものと同じ機能を持つとしても均等侵害手段であるとは認定され得ない。侵害認定にあたって発明のもたらす結果は考慮する必要はない。”
本件は破毀院に持ち込まれ次のように判決があった(1990年12月4日判決)。
“控訴院が均等による侵害の申し立てを却下したのは正しい判断である。何故なら特許発明の手段の組み合わせは既に公知の機能を果たすことがわかっており、この結果特許の保護範囲はその手段の組み合わせの特許請求された形態にだけ及んでいるので、また侵害疑義部品を調べたところ、それらは(特許と)同じ機能を果たしているが、特許で請求されている構造とは違うものであるので、侵害はない。”
IV フランスの均等論適用の特徴
1. 改良発明
フランス特許法によれば、改良発明は特許の侵害とみなされることがある。フランス知的所有権法613条15は、ある特許をもとに改良発明を行った場合、その発明を実施するのに必要なライセンスを元の特許権者から得ることができる。これには、一定の条件があり、特に、改良発明が元の特許に比べ飛躍的な技術改良を実現していること、及び経済的に利益が見込まれるが必要である。
均等侵害の観点から見ると、元の特許の特徴Dが、侵害疑義製品または方式では特徴D’に置換されていて、特徴D’が技術的改良に相当する場合が起こりうる。
例え改良があるとしても、裁判所はそれが侵害に相当すると判断することができる。均等物による侵害をフランスの裁判所が認知するにあたって、均等手段が自明かどうか、当業者にとって均等物の入手が容易であったかどうかを調べることを裁判官は要求されていない。
Shellag Estates対Laloyeau及びTransport Systeme France 事件でパリ大審院は次のように判決した。(1984年9月21日判決)
“侵害疑義部品の滑走システムのほうが特許部品よりも複雑で、特許のほうは滑走と引っ張りが別々に運転されるのに比べ、侵害疑義製品は垂直の引っ張りシステムと滑走システムが同時に運転できるという違いがあってもこれを斟酌する必要はない。これらは発明の独立という観点から見てもとの発明の改良に過ぎないからである。”
という理由により裁判所は侵害を認めた。
2. 発明を構成する本質的要素
フランスでは、発明の本質的要素が模倣された場合には侵害とみなされる。
発明の本質的要素とは、特許で請求されている要素で、それらが先行技術と比べて新規でさらに発明が技術的問題を解決するにあたって必要なものを言う。
これら要素は技術的及び機能的観点から本質的であるとみなされる。
破毀院は1985年1月3日付け判決で、控訴院判決は請求項で定義された発明の本質的構成要素を抜き出してそれらに完全な意味を与えたので、フランス特許法に照らして正しいとした。(破毀院判決1985年1月3日付け)
この判決は、技術的効果を伴わない些細な特徴は裁判所が侵害を判断する際に均等物として取り上げないことを示している。即ち、特許は、些細な変更や本質に関わらない些細な特徴の置換によって侵害されたとみなされることはない。
均等論によれば、均等手段とは、発明の本質的要素の技術的均等手段のことを言う。本質的要素と関係のない些細な変更や些細な特徴のことを指しているのではない。
V 欧州特許条約による均等侵害の解釈.
フランス特許法613条2と欧州特許条約69条はいずれも次のように定めている。
“発明の保護範囲は特許請求の範囲にて定義されたものを言う。しかし、明細書(発明の詳細な説明)及び図面は請求項の範囲を解釈するのに使われなければならない。”
欧州特許条約各加盟国の国内法と整合するように欧州特許条約は69条解釈のための付随合意書を含んでいる。
現在のところ、付随合意書は1つの条文からのみなっていて、加盟国によって異なる、特許請求の範囲文言の解釈についての態度を融合しようと試みている。加盟国の態度には両極端があり、ひとつは明細書(発明の詳細な説明)及び図面は特許請求の範囲の文言があいまいなとき文言の意味するところを明らかにするために使われるというものと、もうひとつは、逆に特許請求の範囲の文言はただのガイドラインに過ぎず、発明の本当の保護範囲は明細書(発明の詳細な説明)と図面に基礎を置いて解釈されるべきであるというものである。
均等論は、特許請求の範囲を解釈するにあたって上記両極論の中をとり、明細書と図面をは特許権者がクレイムした手段の機能を定義するのに使用するべきという理論であるのは明確である。
2000年11月20日から29日までミュンヘンで開催された欧州特許条約改正外交官会議で69条付随合意書を改正することが合意され第2条として均等に関する次の文章が加えられた。
“欧州特許の保護範囲を決定するのに、特許請求の範囲に特に記載されている要素の均等要素に注意が払われるべきである”
上記合意は各国代表の妥協の結果である。実際には外交官会議に提出されていた元々の改正案は次のとおりであった。
“置換されたある手段を使用した場合、特許請求の範囲で特定された手段によって達成されるのと全く同じ結果が得られるということが、当業者にとって自明である場合に、その手段は特許手段の均等であるとみなされるべきである”この改正案は各国の意見の相違により合意に至らなかったからである。
当業者にとって自明であるかどうかの基準はフランスの均等論には存在しないので、もし上記の改正提案が合意されていたなら、フランスの裁判所はそれによって判断の基準を変える必要があった。
同外交官会議開催前に、パリ控訴院はある侵害事件判決にあたり上記合意案に対し議論が必要であるとのコメントを出していた。
“(上記)改正案はフランスで知られている均等に関する基準について変更の可能性を示唆するものであり、また(機能的に定義された)一般手段の保護についての問題もまた再考慮する必要が出てくる。均等かどうかの判断基準が上記合意案のように決められてよいのかどうかについて本事件当事者は意見を提出し外交官会議で討論がなされるべきである。”
外交官会議は均等物が存在することについては同意したが、均等物の定義は避けたので欧州特許条約が批准された場合でもフランスの裁判所は均等論適用についてはフランスで伝統的に認められてきた今まで通りの基準に従って判断し続けるものと思われる。
Didier INTES - © Cabinet Beau de Lomenie - May 2001
翻訳 渡辺恵子
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