II. "技術的寄与"要件について (指令案第4条)
II.1 指令案は、"技術的寄与"という概念が、発明が特許足り得るための最も本質的な要件であるとみなしている。(指令案第4条)
即ち、現在の技術状態(水準)になんらかの"技術的寄与"をするコンピューター関連発明であって、該当する分野の当業者にとって自明のものでなければ、その発明はコンピュータープログラムそのもの以上のものであるので特許となり得る、ということである。
"技術的寄与"要件は欧州特許条約及びEUの署名している他の国際条約、例えばTRIPS協定の内容とも完全に一致する。
このアプローチは欧州特許庁及び加盟各国が数年来展開してきた判例とも一致する。(欧州特許庁抗告部決定 T772/92 T1173/97 T935/97 T931/95 及び弊事務所参照記事[1]から[3])
指令案はまた発明の要素がもともと技術的でないなら、技術的寄与はできないわけであり、従って特許にはなり得ない、とも断言している。
指令案前置き部分で、もともと非技術的であるので特許にはなり得ない発明の例として物理的環境を伴わない純粋のアルゴリズムが挙げられている。
II.2 指令案4条、第3項は"技術的寄与"があるかどうかを評価するには発明全体で判断しなければならないとしている。
この考え方は、欧州特許庁判例PBS(Pension Benefit SystemT931/95 弊事務所参照資料[1])と一致している。
上記が意味するところは、ある発明が欧州特許条約52条(2)(及びEU加盟各国の同等の規定)のいわゆる特許を受けることができない発明分野に属する部分があるとしても、発明全体で見たときに自明でない技術的寄与を含んでいる場合特許となり得るということである。
III. 欧州特許庁判例との差異 (指令案第5条)
欧州特許庁は最近、特許による保護が可能となる対象物について、コンピューター関連発明出願者に非常に有利な決定を繰り返していた。(弊事務所参照資料[3])
例えばT935/97を例にとると次のような特許請求の形が認められた:
-コンピュータープログラムコード手段をもつコンピューターによる読解が可能な媒体を含むコンピュータープログラム製品において、あるいは
-コンピューターで読解可能な媒体にプログラムが記録されているものにおいて、
上記判例の中で欧州特許庁抗告部は次のように(特許付与の対象となり得る発明について)述べている :
"コンピュータープログラムそのものが特許請求されても、そのプログラムがコンピューターに搭載されたとき、一般のプログラムとそのプログラムを稼動するコンピューターの関係を超える技術的効果を生み出すとき、そのプログラムは特許を受けることのできない発明として排除されない"
上記抗告部決定を受け、欧州特許庁は最近、上記内容を挿入することにより審査基準を変更したばかりであった。(C,IV,2.3 53-54頁)
言い換えれば、過去2年間にわたって欧州特許庁は、コンピュータープログラムあるいはコンピューターで読解可能な媒体が、コンピューターとプログラムの正常な相互関係を超える技術的効果を現出するならば、という条件つきで、コンピュータープログラムあるいはコンピューターで読解可能な媒体が特別の電算機命令を持つものをはっきりと含む請求項からなる特許出願の審査を認め、付与も行ってきたのである。
指令案はこれに反し、保護の範囲についてより制限的であるように思われる。なぜなら(クレイムの形式についての)第5条案は、コンピューター関連発明は、(プログラムされたコンピューター、プログラムされたコンピューターネットワーク、あるいは他のプログラムされた機器などの)物として、もしくはそのようなコンピューター、コンピューターネットワーク、ソフトウェアが稼動させる機器などによって稼動するプロセスとして、特許請求することができるとのみ保証しているからである。
かといって、第5条案はコンピュータープログラム、あるいはコンピューターで読解可能な媒体をクレイムする可能性を排除すると明言しているわけでもない。
が、指令案導入説明部分には下記のことがはっきり指摘されている :
"指令は、コンピュータープログラム製品そのもの、あるいは記憶媒体に記録されたコンピュータープログラム製品に関する特許請求を許し、散見される如くコンピュータープログラムそのものに特許を付与するような欧州特許庁の態度に追従するものではないことが銘記されるべきである。"
この見解が最終的に確認されることになれば、欧州連合では機器やコンピューターに装備されていないコンピュータープログラムそのものに対する特許保護は拒否されることを意味することになろう。
そうなった場合でも、指令案は、プログラムが搭載されているコンピューターや、記録媒体上のプログラムが搭載されているコンピューターなど、コンピュータープログラムに非常に近い物に対する特許保護の権利を保証しているので、出願者にとって深刻な影響がでるとは考えられない。が、EU加盟国全部が、特にインターネットによるコンピュータープログラムの販売オファーや、ライセンスのオファーを寄与(間接)侵害であるとして、(コンピューター関連発明の)特許権者が特許権行使をすることを認めれば、特許権の保護がより完全になることはいうまでもなかろう。
IV. 著作権による保護との関係(指令案第6条)
指令案によれば、コンピュータープログラム、あるいはコンピューター関連発明に対して、特許と著作権による補完的保護が可能であるとなっている。
保護は二重である。即ち、コンピュータープログラムの無断の使用は、著作権侵害(プログラムコードを保護している)、及び特許侵害(プログラムが実現する技術的本質を保護している特許請求の範囲について)の二重侵害とみなされる可能性がある。
1991年EU(欧州連合)はコンピュータープログラムの著作権による法的保護に関する指令を発令したが、その中で特にdecompilationやinteroperability等の行為は著作権侵害にあたらないとしている。
指令案第6条では上記(1991年著作権に関する)EU指令で許容されていた行為はコンピューター関連発明に関する特許権が存在するようになっても、許容されることに変更はないとしている。
V. 結論といくつかのアドヴァイス
V1. 本指令案はしかし、コンピュータープログラム、あるいはある方法を実現する為の演算命令を持つコンピューターで読解可能な媒体、のみを明らかに対象としているクレイムを認めるかどうかの問題は別として、欧州特許庁の現行の審査慣行を本質的に変えることはないであろうと予想される。
この点が特に、抗告部の"さらなる技術的効果"に関する解釈(T1173/97及びT935/97、弊事務所参照記事[3])と、EU指令案とが相容れない点であるといえる。
よって、指令案がこのまま承認されれば、欧州特許条約52条の特許を受けることのできない発明リストにあるコンピュータープログラム関する記載は変更されないであろう。
V.2 指令案が最終的に承認されていない現段階では、コンピューター関連発明についての特許出願を準備するときには、それが欧州特許であれEU加盟各国への出願であれ特別の注意を払うよう薦める。
特に以下のものを対象に特許請求するときには、単一クレイムの形をとったり、単独独立クレイムの形をとってはならない :
-....の為の演算命令を含むコンピュータープログラム、
-.....の為の演算命令を含むコンピューターで読解可能な媒体
上記のようなクレイムは、(指令案第5条の内容に沿って)他の方法そして/あるいは物のクレイムを伴わせるか、あるいは独立方法クレイムあるいは物のクレイムに従属させるべきであろう。
従って、コンピュータープログラムあるいはコンピューターで読解可能な媒体を包含するクレイムに加えて出願にあたって次のような請求項を加えることが考えられる :
1.....の段階を含む...の為の方法
2.....の為の手段を含む....の為のコンピュータープログラムまたは機器
3....(例:請求項1に関するものの)為の演算命令を含むコンピュータープログラム
4....(例:請求項1に関するものの)為の記憶演算命令を持つコンピューターで読解可能な媒体
さらに、既に弊事務所参照記事[3]で述べた通り、コンピューター関連発明については、発明の特許性を支持できるに足りる技術的効果をもたらす特徴及び発明の進歩性を裏付けることのできる特徴を必ず記載しなければならない。
出願明細書、説明の部分では、発明が備えている技術的機能と技術上の問題について言及しなければならない。技術上の問題と発明がもたらす問題の解決について詳しく述べることが他の技術分野に比べて大変重要である。
弊事務所参照記事[3]にはその他の注意事項が記載されている。
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VI. 弊事務所参照記事(弊事務所HP www.cabinetbeaudelomenie.fr 掲載)
[1] "欧州特許条約のもとではビジネスメソッドは特許をうけることができない"とした欧州特許庁抗告部決定/ Jean-Jacque Joly 著
[2] コンピュータープログラムは特許を受けられるのか?欧州の立場―最近の議論に果たして意味はあるのか/ Bernard Mayjonade 著
[3] コンピューターあるいはコンピュータープログラム関連発明の特許性についての欧州特許庁判断の変遷/ Pascal Moutard 著
訳者注 :コンピューター関連発明についてcomputer-related inventionという慣習的表現に対し指令ではcomputer-implemented inventionという言葉を使用している。
Pascal MOUTARD © Cabinet Beau de Lomenie/2002年2月
翻訳 渡辺恵子
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