| 改正欧州特許条約EPC2000、2007年12月13日に発効 |
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現行欧州特許条約は1973年に調印された。2000年11月に同条約加盟国外交官会議が開かれ、今回発効の運びとなる改正条約EPC2000が採択された。2007年12月13日かそれ以降に出願されるEP出願にはEPC2000が適用される。(一部の条文は欧州特許条約委員会(Administrative Council)が決定した暫定規定に従い、既に出願中の特許出願にも適用される。)
A 条約の再編成
欧州特許システムの通常のユーザーにとって、EPC2000は大雑把にいって条約番号が大幅に変更された、ところにある、との印象を受けるはずである。
現行条約条文の多くが実施規則に移行された。実施規則については外交官会議を開くことなく、欧州特許庁委員会(加盟国代表で組織される委員会でAdministrative Council と呼ばれる)が変更の権限を持つことがEPC2000では決められているからである
ユーザーが条文番号あるいは実施規則番号で記憶している様々な規定が、以下のように新しい条文番号あるいは規則番号に変わる。
- いわゆる96(2)条に基づく審査官通知は、94(3)条に基づく審査官通知となる
- 出願時あるいはPCT出願のEP移行時に同時に審査費用を払っている出願人がサーチレポートを受領したとき、EPOは出願人に96(1)条に基づいて審査を開始する意思があるかどうか再確認するが、この規定は実施規則70(2)に移行した。
- 現行条文52(4)は手術もしくは治療による処置方法または診断方法が原則として特許性を持たないことを規定しているが、この条文は53(c)となる。
B 主要変更点
新規性及び進歩性を判断する基準、及び特許から除外される発明分野(特に医療方法、コンピュータープラグラム)については現行条約の通りで変更はない。
ただし54条(3)*にあてはまる欧州特許出願(PCT経由を含む)は、後願の指定国にかかわらず新規性を脅かす先行技術となる。(*ある欧州特許出願の出願日あるいは優先日以前に出願された別の欧州特許出願について、その別の欧州特許出願の公開日が、ある出願(後願)より後になったとしても、別の出願はある出願の先行技術となる)
主要な変更点は、出願時及び特許交付後の取り決めについてであって、その多くがPLTと整合するように配慮されている。が、判例のない現段階ではそれら規定が実際にどのように適用されるかについて不明な点も多い。
B-1 出願要件の緩和
優先日から12ヶ月以内にEPOに出願されるいわゆるパリルートのEP出願はどの言語においても行える。たとえば日本語、韓国語、中国語などでそのまま出願し後から翻訳を提出することが可能となる。
実施規則52(2)は、“優先権主張は出願時に行うことが望ましいが、優先日から16ヶ月以内であれば優先権の申し立て及び訂正が可能である”、としている。
条文87(1)はWTO(世界貿易機構)加盟国のうちの一つで行った最初の出願も優先権を確保する、としている。さらに、条文87(1)に規定される優先期間12ヶ月にかかわる規定は、喪失した権利の回復について規定している122条から除外されないので、優先権主張を忘れた場合の救済措置が著しく緩和される。
さらに、優先権書類の翻訳は、審査官が特許性の認定について翻訳を必要と判断したときのみ要求される(実施規則53)のでほとんど翻訳の必要がなくなる。
さらに実施規則56は、優先権書類に完全にそれらが含まれていることを証明するとができれば、説明部分や図面の欠落が出願時にあったとしても後から補正することが可能としている。
欧州特許庁は現在、EP出願明細書の内容について優先権書類を根拠にしてのいかなる補正も受け入れないのでこの変更には大きな意味がある。
さらに規則40(1)(c)によれば、出願の際に優先権出願などそれ以前の出願の事実について記載するだけで明細書やクレームを出願することなく出願日を確保できるようになる。また英国特許庁のプラクティスのようにクレームなしで明細書のみを提出してもEPO出願と認定されるようになる。が、新規事項追加について厳正な審査を行うEPO審査官から明細書に支持部分のないクレーム、として排除される可能性が高くなるかもしれない。
以上のような出願時の要件緩和は、出願受理部に事務負担の増加を強いることが予想される。従って、ユーザーからの質問に対して今までのように明快で素早い対応を期待できなくなることが危惧される。
B-2 先行文献の情報提供
改正条文124及び実施規則141によって審査官は、他国でなされた並行特許出願において指摘されている先行文献を提出するよう出願人に要請することが可能となる。この規定は米国特許庁の情報提供規定とよく似ているが、EPOがどの程度徹底して要求するかについては不明である。
B-3 医薬第2用途クレーム
現行の欧州特許庁プラクティスは、既知の医薬品の第2用途に関する発明を製品クレームでクレームするとその医薬品が既知である場合にはたとえその用途が新規でも新規性がないと査定する。(そのためスイス式クレームが便宜的に使用されている)
改正条約では条文54(5)が改正され54条(1)から(4)の新規性認定規定の例外を認めた。条文54(5)は、次のように解釈できる。
“物質または組成が既知のものであっても、54(4)に規定される治療のための用途に使用されるときには、公知技術の中には含まれない”
従って既知の物質または組成物が、ある疾病の今まで提案されたことのない治療のために使用できることがわかったときには、それを
“疾病Dを治療するための組成物C”
のように製品クレームの形で請求することが可能になる。
B-4 欧州特許条約加盟国各国国内法への影響
欧州特許の無効や侵害を判断できる欧州特許裁判所は、現在のところ存在しないので、欧州特許付与後は各指定国の国内裁判所がそれぞれの国の特許法に基づいて無効や侵害を裁く点については現行通りである。
改正条約138条は、パラグラフ2と3とにおいて、“特許権者は各国裁判所の無効裁判においてクレームの補正を行う権利を持つ”、としているが、この補正の範囲について改正条約は沈黙している。
また現行欧州特許条約69条の解釈についての付随合意書(特許発明の保護範囲について定義している)のうちの均等要素の取り扱いについてはEPC2000でも、“クレームに記載されている要素の均等物にはそれ相当の注意が払われるべきである”と記載されるにとどまったため、均等に関する各国の伝統的解釈は今後もそのまま維持されることが予想されている。
B-5 守秘義務
改正条約134条(a)と規則153条は欧州特許代理人と顧客間の通信が極秘事項に属することを規定している。特に規則153条(1)は、“そのような通信は欧州特許に関する開示について特権を有する”としている。具体的に対象となるのは発明の特許性をめぐる代理人と顧客の間の通信のことである。
この規定は米国におけるいわゆる“evidentiary privilege ”(証拠開示義務に対抗する特権)の規定に相当する。
B-6 特許取り消しまたはクレームの減縮
条文105条aによって、特許権者は、自発的にまた第三者の介入なしに付与された特許のクレームの減縮あるいは特許の取り消しを要求することが可能となる。この手続きは特許が有効ならばいつでも申し立てることができる。
たとえば特許権者が先行技術の存在に気づき、特許が無効になる可能性が高いと判断したときにはクレーム減縮請求を欧州特許庁に行うことができよう。
請求を受けた審査官は新規性ならびに進歩性に関する審査を行うことなく、84条(明瞭性)及び123(2)条(新規事項追加)についてのみ審査をする。ただし異議手続きが欧州特許庁に係留中のときには請求することはできない。
とはいえ再審査がどのように行われるか今のところ不明なため特許権者がこの新たな可能性を利用する価値があるかどうかについては疑問も残る。
B-7 拡大審判廷の役割
法律上の重要問題、特に審査部が同じ問題について異なる決定を下したようなときに審判部あるいは当事者から拡大審判廷に対して欧州特許庁として法的に整合した判断を下すよう請求が行われる
新しい条文112a条は、上記に加え、審判部審理に基本的な手続き上の瑕疵があったか、審判部決定に影響を与える刑事上の行為があったと、みなされるとき、にも拡大審判廷の判断を仰ぐことを可能にする。
この規定についても実際の運用がどうなされるかについてコメントするのは時期尚早であろう。
©Cabinet Beau de Loménie/2007年7月
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