| コンピューターあるいはコンピュータプログラム関連発明の特許性についての欧州特許庁判断の変遷 |
|
 |
目次
はじめに
I 欧州特条約の基本的規則
II 上記規則の適用と欧州特許庁主要判例
III いわゆるIBM事例について(T1173/97&T935/97)
IV 予想される変更について:
a) 欧州特許庁審査ガイドラインの見直し
b) 欧州特許条約改正
c) EU(欧州連合)の法制について
V 請求項と詳細な説明部分のまとめ方について
VI 権利行使について
VII フランス特許庁の態度について
はじめに
欧州特許条約にはコンピューター及びコンピュータプログラム関連の発明に特許性を認めるかどうかについて制限的規則が設けられている。また欧州特許条約加盟各国(オーストリア、ベルギー、キプロス、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルグ、モナコ、オランダ、ポルトガル、スペイン、スエーデン、スイス、英国)の特許に関する法律も同様に定めている。
本論文ではまずこれら規則と規則を適用した欧州特許庁判例を説明した後、特許として認められる請求項範疇を大幅に拡大する判断を下した欧州特許庁抗告廷判決について説明する。この判決に従い、提案されている欧州特許条約改正案、及びEU(欧州連合)が提案している法制変更予定とそれら見直しを前提とした特許出願明細書のまとめ方について説明する。
I 欧州特許条約の基本的規則
コンピューター及びコンピュータープログラムに関する発明に特許性があるかどうかの判断基準は欧州特許条約、52条(1)、(2)、(3)で定められている。即ち:
52条
- 欧州特許は新規性があり進歩性が認められ、産業的利用が見込まれる全ての発明に対して付与される。
- 以下に述べる内容のものは(1)項で規定される発明とはみなされない。
- 発見、科学の理論、数学の方法
- 美的創造物
- 精神活動遂行の為の計画、規則あるいは方法、遊戯、事業を営むこと、あるいはコンピュータープログラム
- 情報の伝達
- (2)に列記された内容は欧州特許出願あるいは欧州特許が、(2)に列挙されたもの自体を対象としている時にのみ特許性がないと判断されるべきである。
上記によるとコンピュータープログラムは発明とはみなされない。規則は、しかしながら出願特許の対象がコンピュータープログラムそのもの自体を対象としている場合のみ特許可能性の範疇から除外することに注意すべきである。
実際には以下の章で説明する如く、欧州特許庁はしばしばコンピューター関連の発明に特許性を認めている。但し、今までは請求項のうち極一部の特別な範囲の請求項に限って (例えば請求項がコンピュータープログラムによって制御されるシステムあるいは方式を保護している場合) 特許付与を認めてきた。
既述のように、欧州条約加盟各国の国内法も欧州特許規則と同様の法律を定めている。
II 上記条例の適用と欧州特許庁主要判例
II-I 欧州特許庁の典型的アプローチ
欧州特許庁が、欧州特許条約52(2)(c)を適用して、コンピュータープログラムに特許性がないと判断するのは、コンピュータープログラムが全く技術的特徴を有さないときだけであって、コンピューター関連の発明はことごとく特許性がないとはみなしていない。
欧州特許庁の典型的な判断の特徴は、特許として請求されている対象が全体的に捉えた場合どれぐらい技術的貢献を行っているかを検討するところにある。特にコンピュータープログラムが、技術的プロセスの制御に使用されているとき(例えば工作機械制御装置、何らかの新しい形で動くコンピューター内部操作制御装置)、あるいは物理的に意味のあるデータ処理(例えば映像シグナルをデジタル方式で濾波する方法)にコンピュータープログラムが使用されているとき、(コンピュータープログラムを含む)特許請求項を容認する傾向にある。
また発明の技術的貢献度が技術的特徴と非技術的特徴がミックスした特許請求項の中に見出される場合も、この請求項全体が特許として認められる。換言すれば、請求項に非技術的特徴が含まれていても、それによって特許性が拒否されることはない。但し、請求項に技術的特徴が明らかに含まれている場合に限られる。
II-2 欧州特許庁最新判例
-
最初の注目すべき判例として欧州出願EP-205507に関する判決T769/92(Sohei)が挙げられる。
出願者は同出願で、少なくとも財務管理及び在庫管理を含む独立した複数の会社経理管理プログラムを含んだコンピューターシステム及び同コンピューターシステムを作動させる方式を特許請求した。様々な管理プログラム用のデータは、このシステムによればそれぞれ全く独立して作動が可能でしかも(管理プログラム用のデータは、)コンピューターデイスプレイ画面に表示された画像の形をした、単一のトランスファースリップを使用することでインプットが可能である。
財務管理あるいは在庫管理などは一般には、“事業を営むこと”の範疇に入る。理論的には、この種の方式を実行するコンピュータープログラムは52(2)(c)の規則に従い特許性は認められない。しかしながら、欧州特許庁抗告廷は以下の理由により特許性を除外できないとした。即ち、抗告廷は上記で説明されている様々な経理管理プログラム自体がこの特許の決定的部分ではなく、決定的に重大な部分はそれら管理プログラムがそれぞれ“異なる”タイプに属し“独立して”操作できるという点にあると判断した。出願特許は、コンピューターシステムの記憶ユニットに、ある一定のコンピュータファイルや、データ記憶処理方法やデータの将来の処理方法や様々な異なる特別の機能をデータ処理機能に実行させる処理手段があることを開示していて、この開示に技術的配慮が払われている。
欧州特許庁抗告廷は、特許請求された発明は確かに非技術的方式を操作させる為のコンピュータープログラムであるが、このプログラムによる方式の実施にあたってある特別の範囲で技術的配慮が適用されたと判断した。技術的配慮がこのように切実に必要だったのは少なくとも技術上の解決すべき問題が明らかに一つ存在しており、その問題を解決する為の技術的特徴が明らかに請求項に含まれていると判断した。
抗告廷は、同出願特許の請求項1.がコンピュータプログラムの財務管理と在庫管理面の応用にだけ限定しているのは事実であるが、だからといって52(2)(c)を根拠に特許性の範疇からこの出願特許を除外することはできない。何故ならこのクレイム限定は、それ自体は本来なら特許性を認めることのできない特許請求項全体の非技術的特徴の一部であって、上述のように、技術的特徴が明らかに認められる請求項が非技術的特徴の請求項と混ざって請求されている場合に相当し特許性を認められると判断した。
-
もう一つの興味部深い判例T110/90について
出願特許は、元々のプリントアウト可能なある“出発文書ファイル”から転換作業を通してファイルを別の方式の“目的文書ファイル”形式に変換してプリントアウト可能な状態にする方式を特許保護範囲としている。ファイルの中にあるプリンターを制御する識別コードが2つ目のファイルに移動したときもコンピューターが読み取ってプリントアウトが可能な形式に変換する。欧州特許庁抗告廷は、請求項はある技術的問題を取り扱っていると判断した。プリンター制御アイテムはデジタルデータで表現されており、この方式で転換されると同じ情報を含む別の形のデジタルデータに変換されるので互換性のないワープロでもプリントアウトが可能となる。こうして通常なら互換性のない2つの文書処理(ワープロ)システムを相互利用可能とした。
換言すれば、デジタルデータの形をしたプリンター制御の為の識別アイテム自体が、このワープロシステムの特徴であり、このシステムの内部作動に関わる技術的特徴をなしているとの判断がなされた。従って一つのワープロシステムに属する技術的特徴である制御アイテムを転換して別方式のワープロシステムの制御アイテムとして作動させることは技術的性格を有する方式(メソッド)であると判断された。
-
データプロセッシング(データ処理)に関する欧州特許庁の態度
データプロセッシングに関する欧州特許庁判例を見ると、データに技術的/物理的意味がある事を理由としてあるいはデータ処理の段階(ステップ)を理由として特許性が認められることがある。例えば、処理の仕方が全く数学的演算によっている場合には特許性は認められないが、例えば映像から成るデータ処理のようにデータに物理的意味がある時には特許性を認めることがある。また欧州特許庁は映像データ処理に関する発明はその映像データが物理的な物あるいはそれに似たもの(C.A.D.コンピューターアシステッドデザインのようなもの)から成っているかどうかに関わらず技術的特徴があると認めている。
II-3 上記判例から、欧州特許庁抗告廷の判断基準は、かなり明白で出願者にかなり“有利”であると結論できる。コンピュータープログラムに特許性がないとして全て却下する代わりに出願者の意向を汲んで特許性除外範囲を非常に狭く解釈している。しかしながら、内容がどのようなものであれ、52(2)(c)の適用を避けて特許性ありと認めさせるには、技術的効果があることを明細書ではっきりと説明できなければならない。
II-4 今までは、コンピュータープログラム自体あるいはコンピュータープログラムを作動させるための命令を含んだ媒体が特許請求されても(拒否されるのが一般だったので)これについての問題が抗告廷で取り扱われたことはなかった。
実際、52条(3)項の規則に照らし誰も付与が可能であるとは考えなかった。欧州特許庁ガイドライン(C-IV,2.3)は欧州特許庁の審査部、異議部における欧州特許条約解釈の指針であるとみなされるが、(抗告廷はガイドラインの内容に束縛されず判断ができる)同ガイドラインは次のように規定している。
“コンピュータープログラムあるいは媒体に記録されたプログラムはその内容がどうであろうと特許付与は不可能である”。
これに対し上記の判断に変更を加える以下の2つの重大な決定が最近抗告廷より出された。
III いわゆるIBM事例について(T1173/97&T935/97)
III-1T1173/97&T935/97:事実経過
両事件ともIBMは審査部決定を不服として抗告廷に事件を持ちこんだ。
T935/97は以下の独立請求項を含んでいた:
1. 情報表示の為のあるデータ処理システムの中のある方式(メソッド)。。。
5. 情報表示の為のあるデータ処理システム。。。
8. コンピュータによる読解が可能な媒体を含むコンピュータプログラムで同プログラムはコンピュータープログラムを暗号化する手段を持ち、そのプログラムが搭載運転された時コンピューターは情報表示を行える。。。
8- 情報表示を行う為のコンピュータープログラムの暗号化手段を含むあるコンピュータープログラム要素。。。
9. コンピューターによる読解が可能な媒体に据え付けられた請求項8のコンピュータープログラム要素
10 コンピューターによる読解が可能な媒体にあるプログラムが記録されていて、このプログラムはコンピューターを通じて情報表示を行える。。。
1173/97事例は以下のような独立請求項を含んでいた。
1. アプリケーションソフトを稼動させるコンピューターシステム内の(壊れた)資源(resource)修復の為の方式。。。 14 アプリケーションソフトを稼動させる環境実行を含むコンピューターシステム。。。 20 デジタルコンピューター内部記憶に直接搭載可能なコンピュータープログラム製品、この中にはこの製品がコンピューター上で運転された時、請求項1を実行できるソフトウエア‐暗号(コード)部分を含む。。。 21 コンピューターを利用できる媒体に貯蔵されたコンピュータープログラム製品、この中には、アプリケーションソフトを実行できるコンピューターが読み取りを可能にするコンピューター読み取り手段が含まれる。。。
上記2事例に対し審査部は方式(メソッド)に関する請求項の特許性は認めたが、(一番目の事例の請求項1.5.及び二番目の請求項1.と14)しかし他の請求項(一番目の7から10及び二番目の20と21)については対象が、コンピュータープログラムそれ自体であるとして欧州特許条約52条(2)(c)を適用、特許付与を認めなかった。
上記2事例に対し審査部は方式(メソッド)に関する請求項の特許性は認めたが、(一番目の事例の請求項1.5.及び二番目の請求項1.と14)しかし他の請求項(一番目の7から10及び二番目の20と21)については対象が、コンピュータープログラムそれ自体であるとして欧州特許条約52条(2)(c)を適用、特許付与を認めなかった。
III.2 欧州特許庁抗告廷の判断
- 上記2事例に対し抗告廷は52条(2)(c)を再解釈し、次のように結論した。
“コンピュータープログラム自体が特許請求された場合、そのプログラムがコンピューターに搭載された時、一般のプログラムと(そのプログラムを運転する)コンピューターの関係を超える技術的効果を生み出すとき、特許性の範囲から除外されない”
- 抗告廷は、発明の対象がコンピュータープログラム自体である時、52条(2)(c)の規則に従い特許付与の対象外となるという伝統的判断を確認した上、しかし、だからといって、全てのコンピュータプログラムを特許の範囲から除外するものではないと意味付けた。“52条(2)(c)は技術的性格を持つコンピュータープログラムの特許性を除外するものではない”。
抗告廷はさらに、コンピュータプログラムがコンピューター上で運転された時に現れる当たり前の物理的変化をもって“技術的性格”であると主張することは認められないと宣言した。該当物理的変化は、どんなプログラムにも現れるものであって、コンピュータープログラムに特許性を認めるかどうかの基準にはなれない。
技術的性格があるかどうかを判断するには、常に
-はっきりした技術的性格を持っているか技術的な問題をプログラムが解決できる
技術的性格があるかどうかを判断するには、常に
-はっきりした技術的性格を持っているか技術的な問題をプログラムが解決できる
抗告廷はさらに、52条(2)(c)に照らして、発明に特許性があるかどうかを判断する場合、上記の“付加効果”が公知の技術であるかどうか判断することは要求されておらずまた公知の技術と比べての技術的貢献についての判断も求められておらず、プログラムに“付加技術効果”があるかどうかだけを判断すれば良いと宣言した。
プログラムがコンピュータ上で運転された時にいわゆる“付加技術効果”を現すならばプログラム自体(例えばそれがコンピューターによる解読が可能な媒体に記録されていても)潜在的に“付加技術効果”があるとみなされる。抗告廷は、“付加技術効果”を生み出す潜在的可能性は、プログラムの持つ“間接技術的効果”と同等でありそのプログラムに特許性を認めることができるとみなした。
IV 予想される変更について
IV-1 欧州特許庁審査ガイドラインの見直し
欧州特許庁審査部及び異議部によりガイドラインの見直しが提案されよう。即ち:
- 現行ガイドラインC-IV,2-3(II.4参照)は既に無効とみなされる。
- 審査用新ガイドラインが発表されよう:
抗告廷判断と整合するように、以下のように制定されることが予想される。
請求項は全体的に判断されるべきである。技術的効果を現し、技術的問題の解決を提供することが明らかならば特許は付与される。
既述の如くコンピュータープログラム制御のある装置の機能過程(プロセス)あるいはコンピュタープログラム制御の製造過程(プロセス)または技術的データの処理などに関する発明については、技術的効果があるかどうかによって判断される(T208/84,VICOM)。
その上、コンピュータープログラムについてはそれが、
-技術的効果を現し(既に公知の技術であったとしても構わない)
-かつプログラムとコンピューターが一般の関係を超えた相互関係を築く場合、 技術的性格を持つとみなすべきである。
最後に、しかしながら、プログラムがある程度の効果を現したとしても一般のコンピュータ機能(普通のやり方で情報表示をするプログラムなど)の域を出ないプログラムに特許は付与されないと付け加えられるであろう。
コンピュータープログラム制御の過程(プロセス)やコンピューター機能自体に技術的効果が認めらる場合がある。が、既述の如く、コンピューターの電流変更のようなコンピューター機器に現れる物理的変化を技術的効果と呼ぶことはできない。
さらに、コンピュータープログラムに技術的効果がある時には、プログラムが運転されるコンピューターハードとプログラムの組合せを対象に特許請求できるばかりでなく、プログラムそのものだけに対しても特許請求ができる(V.1参照)
IV.2. 欧州特許条約の改正
欧州特許庁は最近、欧州特許条約第52条(1)から(3)の改正を提案した。
提案によると第52条(2)と(3)は削除され52条(1)が次のように改正される見込みである。
“欧州特許は全ての技術分野において産業利用が見込まれる発明であって、新規性があり、進歩性のある全ての発明に対して付与される”。
この改正により欧州特許条約とTRIPS協定第27条との整合性が実現する。
上記改正文案は簡明でしかも“技術”と言う概念を含んでいる利点がある。この言葉のお蔭で(技術的性格を有する)コンピュータータープログラム、あるいはコンピュータによる解読が可能な記録媒体に特許付与をするのに条文解釈を加える必要がなくなる。
本条文改正には欧州特許条約第172条の取り決めにより加盟国外交会議が必要である。会議の召集は欧州特許庁理事会が行う。提案によると外交会議は2000年中に開かれ2002年7月1日迄には施行される見込みである。
IV.3 EU(欧州連合)の法制について
欧州委員会は、特許性についての基準(特に新規性と産業利用可能性)が満たされれば、一般にはコンピュータープログラムに特許付与するべきであるとの見方をしている。欧州委員会はその主旨に沿い、欧州政令を発令してEU(欧州連合)加盟各国(ドイツ、オーストリア,ベルギー、デンマーク、スペイン、フィンランド、フランス、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、英国、スエーデン)に国内法を改正させる用意があると発表した。
V 請求項と明細書のまとめ方について
V.1 請求項の特徴について
技術的性格を持つコンピュータプログラムは、次のような形でEP出願が可能である:
-コンピュータープログラム自体
-そして/あるいは、プログラム製品として
-そして/あるいは、記録媒体として (コンピュータープログラムが使用されているシステムまたは方式(メソッド)の請求項の一部として出願されるものに加えて)
但し、出願者はプログラムの特許請求を可能とする技術的効果がはっきり判る全ての特徴を定義しなければならない。
また請求項には進歩性を証明できる特徴も含んでいなければならない。
特許請求されたコンピュータープログラムに技術的効果が見出されなかったり、技術的な問題を解決していない場合には審査部は現行条約52条(2)(c)を理由とするか、条約改正後は新52条(1)を理由に特許付与に異議を唱えるであろう。
V.2 進歩性(InventiveStep)の分析について
進歩性についての審査部の分析は他の分野の出願特許に対するものと全く同じである:
-請求された発明と最も近い先行技術との違いの分析
-上記の違いに相当する客観的な技術問題が提起される。続いてこの客観的な技術問題に進歩性が含まれているかどうかが判断される。
-含まれていないと判断される時、この客観的な技術問題の解決を当業者が簡単に見つけられるかどうかが判断される。
V.3 発明の詳細な説明
コンピュータープログラムが実行できる技術的機能について開示せねばならない。
特にプログラム実行によって得られる結果を説明するだけでは不充分でどのように結果が得られたかについての詳しい説明が必要である。
また説明部では、解決すべき技術上の問題についても言及すべきである。コンピュータープログラムに関する特許性の基準(IV.1参照)に照らして、技術上の問題と発明による問題の解決についての十分な説明がなされることが、他の分野の特許出願よりも重大な要素となる。
説明に使用する技術用語は統一がとれていてしかも理解できるものでなければならない。審査官が出願者のみが使用するまたは出願者のみに知られている表現方法や技術用語にぶつかった場合、欧州特許条約84条(明瞭性の欠如)を理由に拒否する可能性がある。よって、出願の前には、技術を説明する言葉の選択を慎重に準備すべきである。
フローチャート及び例の挿入が必要不可欠であると我々は考える。
現在のところ、欧州特許庁審査ガイドライン(C-II,4.14a)はプログラム内容の完全なリステイングを出願明細書に添付してもそれを発明の開示とはみなさないとしている。審査官によれば、それらリステイングは当業者に十分な開示を与えないばかりか、出願請求変更があった場合にもそれらを変更の基本として使用できないと言う理由による。
これに反し、プログラムの抜粋リステイングは提出が認められている。しかし抜粋では十分な開示は行えず、出願者にとって安全な策ではない。
我々は、欧州特許出願にあたってプログラムの完全なリステイング提出を禁ずる審査部の態度は正当な理由に欠けると考えている。52条の改正に伴い上記ガイドラインを抗告部が取り消すことも予想される。
とはいえ、何の変更もない現段階では特許出願にあたってはコンピュータープログラムに関する全ての特徴を、自然な言葉使いで表現し、そして/あるいはフローチャートと図式により説明するべきである。
V まとめ
既述のいわゆるIBM事例は欧州特許の特許保護範囲対象を変更した。今後はコンピュータープログラムそのものあるいはコンピューターで読解可能な記録媒体そのものも特許請求が可能である。(今までも特許請求可能であったコンピュータープログラムあるいは記録媒体が使用されているあるシステムまたはある工程に加えて)
コンピューターまたはコンピュータプログラムに関する発明が“付加技術効果”を現すことが特許請求項に明らかに含まれている場合、現行欧州特許条約52条(1)から(3)項の特許性除外の範疇に入ると解釈される恐れはなくなり特許付与されるであろう事がはっきりした。
コンピューター産業、特にネットワーク技術が今後も発展していくことが予想されるので、同分野の特許出願にあたっては、コンピュータープログラムを稼動させる為の命令を運ぶ信号(signalcarryingtheinstructions)を請求項として設け、詳細な説明を明細書で行うことを薦める。記録媒体、例えばCD-ROM、に記録されている情報は“凍結‘の状態にあるので、その結果、記録媒体に対する特許請求項の中にコンピュータープログラム情報のネットワークによる伝達を含むことはできない。
VI 権利行使
VI.1. 侵害と寄与侵害について
コンピュータープログラムあるいはコンピューターによる読解可能な記録媒体を対象とする特許請求に特許が付与された場合、もちろん特許権者はプログラムやCD-ROMなどの販売や特許権の実施について特許権を主張できる。
寄与侵害について規定したフランス知的所有権法第613-4条を以下に挙げる(欧州特許条約加盟の各国とも同様の法規定を行っている):
“特許所有権者の合意がない限り、フランス国土内で、特許実施の権利を持つ者以外の者に、それら手段が該当発明実施の為の手段であると第三者が知っているとき、あるいは前後の事情からそれが自明であるとき、発明の本質部分に関わるその実施手段をフランス国内に配達したりあるいは配達のオファーを行うことは禁止される。”
フランス法によると、寄与侵害者とはフランス国内に発明の本質的要素を配達したり配達のオファーをする者のことである。もう一つの条件は、発明の本質的要素の提供を受けた第三者によって侵害行為がなされるかあるいは計画される点にある。
CD-ROMのようなコンピューターによる読解可能な記録媒体も今後は他の特許と同様特許付与が可能となるからには、間接侵害の対象となることは当然である。他のコンピュータープログラムも事情は同様である。
VI.2. とはいえ、フランスの裁判所裁判官がコンピュータープログラムや記録媒体を明らかに含む請求項の有効性についてどう判断するかについては現状では予想ができない。
よって、欧州特許出願にあたっても、今のところ、従前通りプロセスに関する独立請求項及びシステムに関する独立請求項を維持し、これにコンピュータープログラム、コンピューターによる読解が可能な記録媒体、コンピュータープログラムを送信する信号について付加請求する方が安全であろう。
VII フランス特許庁の態度について
フランス特許出願に関して、フランス特許庁は現在も残念ながら、コンピュータープログラム及びコンピューターによる読解可能な記録媒体そのものについての特許請求には異議の見解を唱えている。
欧州特許庁の態度の変化に照らしてフランス特許庁が見解を変えるかどうかについては今のところ不明である。
がいずれにせよ、本論文IV.2で述べた如く、早晩EUレベルで政令が出れば、EU(欧州連合)加盟各国の国内法がTRIPS協定27条と整合するべく改正されることは必至である。
© CabinetBeau de Lomenie1999年6月 - PascalMoutard
翻訳渡辺恵子
|