資料室 > レポート/研究
コンピューター関連発明の特許性についての欧州の態度 2004年11月現在の状況

I. 欧州特許庁審判廷判例

1. いわゆるCOMVIK決定(T0641/00)以来、同決定の原則を確認する複数の決定が欧州特許庁審判廷によって出されている。

同事例は、技術的性格と非技術的性格を併せ持つ発明の特許出願が可能かどうかに関するものであった。

が、実際には、作業の自動化に関するコンピューター関連発明、あるいはコンピューター技術を使用する方法に関する発明、の特許性判断にあたってこの判例原則が適用されている。

2. COMVIK決定のもたらした原則とは以下のものである。

(1)    出願クレームが技術的特徴を含むとき、その発明は欧州特許条約52(2)を理由に特許性がないとして排除されることはない。欧州特許庁が以前採用していた“貢献アプローチ”の原則とは反対にその技術的特徴が必ず新規である必要はない。コンピューター、サーバー、ネットワークなどの記載があれば十分である。
(2)    が、進歩性があるかどうかの審査に関しては
-         解決すべき技術的問題とは何かを見分けること、
-         クレームの技術的特徴だけを考慮すること、
-         その技術分野の当業者にとって技術的問題の解決が自明ではないかどうか判断すること

発明の提起している問題、その解決、及び該当する当業者の分野も、技術的性格を帯びていなければならない、ことが明らかにされている。

3. この決定の原則を完全に支持する複数の欧州特許庁決定が最近続けて出されている。それらをここで考察することは、どのようなコンピューター関連発明ならば特許性があるのかの境界を知るのに有益であると考える。

4. “オークション メソッド/HITACHI”(T0258/03)は自動オークションを受付コンピューターが行う方法に関するものである。

出願人は、オークションがリアルタイムで行われるとき顧客のコンピューターとサーバーコンピューター間の伝達に時差が生じて送られたオークションの注文受付到着時間に誤差の出る問題を解決しようとした。

問題の解決法は、オークションを自動化することにあり、その方法は、“複数の顧客コンピューターから、競り希望価格及び競り時の最大許容価格を伝達させる、競り希望案件があるまで価格を調整し競り価格を設定する、複数の競り希望者が残った場合には価格を順時上げていき、最後に残った者が競り落とすことができるようにする”、ことにあった。これら手順を自動化することでリアルタイムオークションにおける交互伝達の問題が解決された、としていた。

審判廷は、問題に対して提案された解決方法は全く技術的範囲に属さない、なぜならそれは単にオークションのルールを変更したにすぎないからである、とした。さらに、そのルール変更をコンピュータ上で行う作業はただの日常的コンピュータープログラム作成作業に過ぎない、とした。

5. “注文管理/RICOH ”(T0172/03)決定。

出願人は、本件審査時に審査部が、 Controlling Pension Benefits System/PBS PARTENERSHIP(T0931/95)決定の原則を適用した点を批判していた。T0931/95決定を行った審判部は、進歩性の判断にあたっては、方法が非技術的特徴で構成されているなら、たとえその中に開示されていない新規な特徴が含まれていても、非技術的特徴全体が新規ではない、と当業者によって判断されてしかるべきである、としていたが、その点への批判である。

なるほど、“非技術的特徴は先行技術に属することができない”、あるいは、“非技術的特徴はそれが何であっても当業者がそれを新規だとみなすべきではない”、との判断は、架空の状況を作り出すことになり、特許性判断の原則としては満足のいくものではない。

これに対し、COMVIK決定が導き出したアプローチは、“新規性進歩性を判断するにあたって技術的特徴のみを判断すべきである”、という原則のみからなっていて特許性判断の原則としては理にかなっている、と言えるかも知れない。

審判部は、本決定の理由として、クレームされた発明(企業各部門からのオンライン注文を中央管理させ業者に発注することを可能にする発注管理装置)は、既知の流通情報を機能的特徴とデータ構成によって区別しようとしたものに過ぎない、とした。問題解決の技術的解決が提案されているが、それは発注の仕組みが持つ制約を単に自動化して解決したものに過ぎず、その自動化は普通のコンピュータとプログラムを使用した自明のものである、とした。

6. これに対して、“画像データの検索/CANON”(T0643/00)、は審査部の拒絶査定を審判部が覆した例である。

特許請求された発明はデータベース内での画像検索に関するものであった。

ユーザーによる検索を容易にするため、発明は、複数の低次元再生画像を横並びに同時に表示する方法を含んでいた。また、画像が選択されるとそれを高次元で再生するため再生の程度を調節できるスイッチを含んでいた。

問題の解決方法の中に画像の選択がユーザーに任されている点が含まれているが、審判部は、その点だけを取り出して本発明は非技術的である、とみなすことはできない、とした。

審判部はまた、技術的システムの中で使用される情報に対してシステムの特性を顕著にさせることにより技術的特徴をその情報に付与することができる、とした。

それゆえ低次元画像再生と関連させて複数の画像を横並びに表示すること、は単なる情報の提供ではなく技術的特徴にあたる、とした。

従って、低次元再生画像の表示とスイッチを通して高次元再生画像として選択する組み合わせは問題の技術的解決に相当し、これによって、ユーザーはデータベースから容易にすばやく画像を検索することができる、とした。この解決は先行技術に対して進歩性があることを審判部は認めたのである。

7. 欧州特許庁は、これらの審判部決定を通じて、発明の特徴に技術的性格があるかどうか、またそれが技術的問題の解決に相当するかどうかを判断するだけで、新規な特徴が非技術的分野に相当するビジネスモデル出願、あるいは、コンピュータープログラムを操作するだけの自動化の方法に相当する出願、を拒絶する審査態度を確立した、と結論できよう。

参考までに、日本特許庁及びUSPTは上記HITACHI出願及びRICOH出願に特許を付与している。


II. コンピューター関連発明の特許性に関する欧州指令案

1. 欧州特許庁判例と欧州連合各国のコンピューター関連発明に関する態度を調和の取れたものにするため欧州委員会が提案しようとしている欧州指令に関するここ数年の動きをまとめると以下のようになる。

2002年 欧州委員会による欧州指令案の欧州議会及び欧州理事会提案

\/
反対派の欧州議会議員への強力なロビー活動
\/
2003年9月欧州議会が欧州指令案の大幅修正案を決議採択
\/

2004年5月 欧州委員会レベルで2002年欧州指令案に近い欧州指令案に関する合意

\/

反対派のロビー活動再開

\/

2004年11月9日 欧州議会の本件諮問代表としてフランス旧首相ロカール氏が任命される。同氏はコンピューター関連発明の特許付与反対派

\/

2004年11月末 2004年5月欧州委員会合意案に近い新欧州指令案が欧州議会及び欧州理事会に提案される予定


2. 欧州議会は最近選挙が終わったばかりだが、2004年5月の欧州委員会合意に近い形、即ち元々の欧州指令案に近い形で案が欧州議会に提案されるとすると、再び大幅な修正案が決議採択される可能性が高い。

例えばオランダ議会ではソフトウェア特許反対動議なるものが採択され、オランダ政府に対し欧州指令案支持を撤回するよう迫っているとの報道がある。ドイツ議会内にも同様の反対運動グループが形成されている。

議会外でも反対派の活動が盛んに行われている。

EU域内市場問題担当の前欧州委員ボルケンシュタイン氏は、欧州議会が大幅修正案を採択するならば本指令案は放棄されるだろう、と述べていた。新委員の立場はまだ明らかになっていない。(新欧州委員会そのものが任命されたばかり)

3. 代替案として、欧州委員会が新提案を行う前に欧州理事会及び欧州委員会と合意のため話合い、その後欧州議会に受諾可能な案を提案することが検討されている、とも伝えられている。

弊事務所は今後とも注意深く本件の推移を見守っていく予定である。

 © CABINET BEAU DE LOMENIE / November 2004



158, rue de l'Université - F 75340 Paris Cédex 07 - France
Tél : +33 (0) 1 44 18 89 00 - Fax : +33 (0) 1 44 18 04 23