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ディスクレーマー / 欧州特許庁大抗告廷決定20004年4月8日G001/03及びG002/03

デイスクレーマーに対する欧州特許庁の態度の変

審査中の出願人によるデイスクレーマー、すなわちクレームの範囲から特定の実施例を除外することによる否定的な形のクレームの一部放棄、については、たとえその補正が出願時明細書に支持されていなくとも認められる、というのが長年の欧州特許庁抗告廷(審判部)の態度であった。

これはしかし、欧州特許条約123(2)条の要求する、“すべての補正は出願時明細書に基礎を置いたものでなければならない”という大原則と矛盾する。

クレームの保護範囲を限定する、明細書に開示のない特徴追加、に関する判断はすでにG01/93でなされている。それによると、

“出願時明細書で開示されていなかった特徴が審査中に追加されても、それが発明の主題に技術的貢献をもたらさないもので、また、出願時に明細書によって主張されていた発明の主題の一部が除外された結果付与特許の保護範囲がその分だけ制限されるならば、その補正は123(2)条が言うところの出願時の内容を超えるものとは考慮されない”

欧州特許条約54(2)条のいう先行技術に開示されている特徴を出願クレームから除外することによる、いわゆるデイスクレーマーは、新規性確保のためクレームを肯定的に補正することがクレーム文言の明確さや簡潔性の点から不可能である場合には一般的に是認されてきた。

T170-87は、デイスクレーマーは、先行技術と技術状態が重なり合う(オーバーラップする)情報を出願から除いて出願を新規に保つため使用できるが、デイスクレーマーにより発明に進歩性が加えられてはならない、としていた。

また“偶発的な先行開示”すなわち“開示が偶発的に出願クレームの新規性を喪失させる結果となったもの”という概念がいくつかの抗告廷(審判)決定で導入された。

T608/86及びT1071/97では、出願に提起されている解決すべき問題に直面した当業者ならば、それが問題の解決とは関係のない分野に属する、またはそれが問題を解決する役には立たない、のいずれかの理由により無視するであろう開示のことを、偶発的に(出願の)新規性を喪失させる開示、と呼ぶと定義した。

T525/99では、以下の条件があれば例外的にデイスクレーマーによってクレームから開示先行技術を除外することができる、と決定された:

(1)      デイスクレーマーを行わなければ先行技術が出願クレームの新規性を喪失させる、
(2)      デイスクレーマーで除外されるものは、該当する先行技術資料に使用されていると全く同じ言葉遣いで定義されている、
(3)      デイスクレーマー後、補正されたクレームが進歩性(判断)に何らの影響を及ぼさない、という意味において、先の開示が偶発的であった、とみなされる、
(4)      デイスクレーマーが結果的に技術貢献をなす特徴の追加となって、選択発明として不当な優位性を出願人に保障することがない、

しかし、この欧州特許庁の態度は、抗告廷(審判部)3.3.6が、決定T323/97において次のように宣言することによって急変した。

“出願時明細書に支持のない補正、そして特にデイスクレーマーによってクレーム中の文言から技術状態を切り離そうとする補正は、欧州特許条約123(2)条に違反するので認めることはできない”

抗告廷はこの決定の法的根拠を優先権についての大抗告部決定G2/98に置いた。

この決定は、デイスクレーマーに関するそれまでの欧州特許庁の見解と全く相反するものであった。抗告廷によって同じ問題に対して異なる決定が出された場合には、欧州特許庁としての判断の整合性を維持するため、該当する問題を提起されている抗告廷(あるいは当事者)が、大抗告廷の統一的判断を求めることがある。今回の大抗告廷決定G001/03及びG002/003は、2つの抗告廷より出されていた以下の諮問に基づいて出されたものである。


決定G001/03に先立って諮問されていた質問

1         デイスクレーマー導入によるクレームの補正は、デイスクレーマーもデイスクレーマーによってクレームから除外された文言も、出願時明細書に支持されていない、というだけの理由で、欧州特許条約123(2)条に照らし不許可になるのか?

2         上記1の答えが否、ならばデイスクレーマーが許可されるための基準は何か ?

(a)          特にクレームは、欧州特許条約54(3)条にいうところの技術状態に対して保護範囲を限定すべきなのか、54(2)条にいうところの技術状態に対して保護範囲を限定すべきなのか?

(b)         デイスクレーマーによって除外される文言は先行技術で開示されているものと全く同じである必要があるか?

(c)          デイスクレーマーを行うためには先行技術に対して出願クレームの新規性を保つためという理由が必ず必要か?

(d)         抗告部の先行判例にあるように、デイスクレーマーできる開示は偶発的である必要があるか。もしそうなら、どのようなときにその開示は偶発的と判断されるのか?それとも

(e)          出願時明細書で開示されていなかった先行技術を除外するためのデイスクレーマーは123(2)条に基づいて許可されるが、補正クレームの進歩性審査にあたっては、まるでデイスクレーマーは存在しなかったようにして行うのが採用されるべき審査態度か?


決定G002/03に先立って諮問されていた質問

1         デイスクレーマーの目的が54(3)条から派生する新規性欠如による拒絶を回避するためなら、出願時明細書で支持のないデイスクレーマーをクレームに挿入することは123(2)条に照らして許容されるのか?

2         1.の答えが可であるなら、デイスクレーマー導入のための基準とは何か?


拡大抗告廷決定G001/03及びG002/03の概略

I デイスクレーマーが許可されるための条件

まず大抗告廷は “デイスクレーマー”を次のように定義した:

“クレームに 否定的な文言の技術特徴を導入すること、典型的には一般的な特徴から特別の実施例あるいは分野を除外することによりクレームの補正をおこなうこと”

さらに大抗告廷はデイスクレーマーを、「出願人がクレームの文言から何かを放棄することによる単なる意図的な制限である」、と定義することを否定し、次のように結論した:

“クレームの補正は必然的に技術的意味を持つ、さもなければクレームがそれを含んでいることは不必要であろう。いずれにせよ技術的に意味のない特徴がクレームの保護範囲を制限することはありえない”

1)             出願時に公開されていなかった先行出願との関係について(欧州特許条約54(3)及び(4))

決定文2.1.1項において大抗告廷は、二つの前後する同じ発明に関する出願の処理についてヨーロッパにおいては伝統的に二つの立場があること、ひとつは“出願全体”を捉える国々の立場、もうひとつは“先行クレーム”としてクレームごとに捉える立場の国々があることを紹介、新規性に関して “出願全体 ”の立場のほうが最終的に採用された経緯を説明している。

次にデイスクレーマーに関して不安要素を生み出した欧州特許庁決定T323/97に触れ、“出願の技術的教示に関係のないクレーム中の文言をデイスクレーマーによって放棄できる、という意見に反対だとするのにG02/98を法的根拠として援用することは不可能である”と結論した。(G001/03、G002/03決定2.1.2項参照)

決定文2.1.3項において大抗告廷は、上記の先行出願の開示を後の出願からデイスクレーマーによって除外することは欧州特許条約123(2)条からみて矛盾しているとはいえない、何故ならそのようなデイスクレーマーは、単に法的理由からその文言を除外するものであって、発明に含まれる技術的情報とは関係がないからである、と指摘した。

2)             欧州特許条約54(2)条によるところの技術状態 : 偶発的開示

大抗告廷は、偶発的開示の概念は、何よりも新規性だけを考慮するという点で、上記で検討した同じ発明についての前後する出願と同じ状況である、との意見である。

決定T608/96及び T1071/97を参照して大抗告廷は次のように指摘した :

“上記決定で、抗告部は出願に横たわる問題解決に直面した当業者なら、その開示が問題の解決とは関係のない分野に属する、あるいは開示されているものが問題解決の役に立たない、という理由で無視するであろうとみなされるものなら、その開示は偶発的に新規性を犯している、と言っている。すなわちそれら抗告部決定によれば、進歩性判断には全く関係がない開示のことを指している。”

さらに大抗告廷は、上記の定義の個々の要素と偶発的開示に適正な定義を与えようとする他の試みとを別々に捉えることはできない事実に注意すべきだ、としている:

“技術的観点からもっとも大切な点は、その開示は発明と余りにもかけ離れていて余りにも無関係なので当業者が発明を実施する際考慮にさえいれないに違いない、という点である。”

大抗告廷は、上記の定義が“偶発的開示 ”の文字通りの意味に相当する、また同じ発明についての前後する二つの出願の場合と比較可能な正当な意味づけである、とした。

その結果、大抗告廷は、偶発的開示を除外するためのデイスクレーマーも123(2)条と矛盾しない、と結論した。

“偶発的開示の場合、上記の定義は、その開示が進歩性を審査する際全く意味のないものである以上特許請求されている発明の教示するものとはなんら関係がないことを明らかにしている。従って、偶発的開示を単に除外するだけのデイスクレーマーは、出願時明細書に示される技術的情報を変化させることはない、と想定される。この理由により、123(2)条が意味するところの出願時の内容を変更することはないと想定される。”

3)             欧州特許条約54(2)条の技術状態 :偶発的でない開示

今回の諮問にあたって、54(2)条に定められる新規性に関する拒絶を克服するための偶発的でない開示に対してのデイスクレーマーも認められるべきで、単に進歩性審査のときデイスクレーマーを考慮に入れてはならない、と決定すべきだとする第三者意見が多く出されていた。

しかし大抗告廷は、この意見を採用せず、新規性にあたっても進歩性にあたっても審査すべきはクレームされた通りの発明である、と結論した。

4)            特許付与の対象にならない発明

欧州特許条約52条、53条及び57条に関係する特許付与の対象にならない発明に関しての文言をクレームから除外することによるデイスクレーマーも許容される、とした。

5)            実施不可能な発明の実施例

実際には実施が不可能な実施例をデイスクレーマーにより除外することは認められない、とした。

大抗告廷の意見によれば、“実施例として多数の選択の可能性があって、それが明細書に情報として十分に盛られていて(当業者が)クレームの保護範囲に関し明細書の実施例から普通にそれを見つけることができるならば、実施不可能な実施例がクレーム中に挿入されていても実害はないので”デイスクレーマは必要でないばかりか適当ではない、ということであり、

そのほかの場合には、その出願は進歩性およびあるいは開示を十分におこなうこと、という特許の要件を満たしていない、ということになる。

6)            その出願に技術的貢献をもたらす結果となるデイスクレーマーについて

デイスクレーマーは出願が保護を求めている技術的効果を達成する目的で要求されることがあってはならないし、進歩性及び開示が十分に行われているかどうかの基準を達成する目的と関連のあるものであってはならない。


II デイスクレーマーの書き方

デイスクレーマーは新規性を回復するため、あるいは非技術的理由により特許たり得ない発明に相当する記述をクレームから除くのに必要なもの以上の内容を除去することがあってはならない。

大抗告廷は、デイスクレーマーの必要性があるからといって、それが出願人にクレームを任意に補正する機会を与えることになってはならない、と強調している。

またデイスクレーマーを含むクレームも当然、欧州特許条約84条の定める通り明瞭で簡潔に書かれていなければならないこと、を喚起している。

さらに、出願時に示されていないデイスクレーマーによる補正を行ったこと、及びその理由について明細書に説明がなければならない、としている。出願時のクレームと先行技術によって開示されているものの違いを説明するのに出願時明細書に書かれていない肯定的特徴を使用することによってデイスクレーマーがあることを隠すことはならない、としている。除かれた先行技術は欧州特許条約施行規則27(1)(b)にのっとって明細書に説明することが必要である。また先行技術とデイスクレーマーの関係を明らかにすることが必要である。


III デイスクレーマーと優先権

大抗告廷はデイスクレーマーと優先権との関係についても言及し、欧州特許条約87(1) 条に定められる優先権書類の開示と、123(2)条に定められる出願中補正に関する開示、との関係は(デイスクレーマについても)同じように解釈されるべきである、と指摘している。

換言すれば、審査中に許可される、技術的貢献をもたらさないデイスクレーマーは、87(1)条の意味において優先権の開示する発明に変化をもたらすものであってはならない。

従って、優先出願がデイスクレーマーを含まない出願であっても、優先出願が開示しているものに影響を与えないならば欧州出願準備中、そして出願時にデイスクレーマーを導入することが可能である。


IV 結論

大抗告廷の決定

1.      デイスクレーマーを導入することによる補正は、デイスクレーマーもそれによって除外された文言も出願時明細書に支持されていない、という理由のみによって123(2)条を適用し拒絶することがあってはならない。

2.     出願時明細書に開示されていないデイスクレーマーが許可されるかどうかの決定には以下の基準が適用されるべきである:

2.1 以下の場合にデイスクレーマーは許可され得る:
-          54(3)条及び54(4)条のもとでの技術状態に対してクレームを限定することにより出願の新規性を回復するとき、
-          54(2)条のいう技術状態の偶発的開示に対してクレームを限定することにより出願の新規性を回復するとき;その開示が余りにもクレームされた発明とかけ離れているか、無関係なので、当業者なら発明の実施の際にその開示を全く無視するであろう開示のことを偶発的である、と定義する、
-          52条から57条のもとでの、非技術的理由によって特許を付与され得ない発明対象をデイスクレーマーによって除外するとき、

2.2             デイスクレーマーは、新規性を回復するため、あるいは非技術的理由によって特許を付与され得ない発明に相当する記述を除外するのに必要なもの以上の内容を除去するものであってはならない。

2.3              進歩性あるいは開示が十分がどうかの審査にあたってデイスクレーマーが関係する、あるいは関係を持つようになる、ときにはデイスクレーマーは新規事項の追加にあたるので123(2)条違反となる

2.4              デイスクレーマーを含むクレームは84条の定める通り明瞭で簡潔でなければならない

© Cabinet Beau de Loménie/May 2004   翻訳 渡辺恵子



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